高校1年生の冬に部活を辞めて、余るほどの時間を持っていたボクはバスケ以外にもいろいろなことをした。その1つは、人生で初めての武器を手に入れたこと。それは”中型バイク”だ。当時の若者は、それを”単車”と呼んだ。
教習所という社会の学校
高校2年になると、中型バイクの免許を取りに教習所に通った。学校からの帰り道、東武東上線の下赤塚駅で途中下車し、教習所の送迎バスに乗る。帰りは教習所から自宅方面への直行バスが出ていて便利だった。
教習所にはいろいろな人がいる。特に中型二輪の免許を取りに来る人の年齢も性別も様々だ。17歳だったボクにとって、社会で働く大人と触れ合う世界はとても新鮮だった。
スポーツをやってきたボクにとって、教習所でのバイクの運転はそんなに難しいものではなく、検定試験も1発合格だった。
高校2年の冬には晴れて中型バイクをローンで購入した。すでにバスケ部をやめて、自由を謳歌していたボクはバイトをしていたので、ローンはコツコツと自分で支払っていった。
最初はなんとなく兄に勧められてヤマハのSRという古風なバイクに乗った。
納車した時のあの高揚感というか、“自分の武器を手に入れた”感は忘れることができない。
古いモデルだったがゆえにキックでエンジンをかける必要があったり、冬場はエンジンの暖気が必須だったりと、ちょっと面倒なバイクではあったが、レトロな雰囲気のバイクはとても魅力的で、他の仲間が乗っているバイク(いわゆるネイキッドや、アメリカン)とは違い個性的だった。
伊豆への旅と価値観の変化
夏には友人Kと伊豆へツーリングに行った。Kが乗っていたビッグスクーターは、「なんとなくおっさん臭い乗り物だなぁ」というのが最初に見た時の感想だった。しかし、荷物がシート下のトランクに入ったり、すぐにエンジンがかかって小回りがきくところ、足元が自由で長時間の運転が快適なところ、オートマで片手でも運転が手軽なところ、旅の道中で全てが羨ましくなってしまい、自分のライフスタイル(高校2年で何を偉そうに)にはビッグスクーターしかないと思い始めていた。
つまりボクは、別にバイクそのものが好きなわけじゃなくて、バイクで自分の行動を最大化したいんだと、気が付いてしまったのだった。
例えば、SRでバスケしに行く時、大きなリュックを背負って、ウェアとバッシュを入れて、ボールも別に持っていくだけで、運転もしづらいし、見栄えもちょっと悪い(ここ大事)。そして、ちょうどその頃モデルチェンジが迫っていたヤマハの新型マジェスティは、バスケットボール1つ、バッシュとウェア、それにヘルメットまで見事にシート下に収まる画期的なモデルに切り替わろうとしていた。
SRのローンが残っていたこともあって、借金が増えることを考えると難しい決断だったが、ボクはこの頃から自分の気持ちに嘘をつくことができない性分で、新型マジェスティに買い換える決心をするまで長い時間は掛からなかった。
ちなみにこの頃からビッグスクーターブームを迎え、東京中がビッグスクーターだらけになったのも、今では懐かしい思い出だ。
それから数年間はほぼ毎日マジェスティと暮らした。
東京に生まれて東京に家があるということこそが、ボクの最大の武器。学校の登下校に電車を使う以外、全てバイクで移動した。
大学生になっても、バイクで学校に通ってほとんど電車は使っていない。
ビッグスクーターはとにかく燃費が良い。リッター20kmはゆうに走ったし、満タンにしても1000円前後だったと思う。しかも当時は、バイクの駐車違反の切符を切られることもない天国のような時代だったのだ。どんな道路でも、路肩には原付や単車がひしめき合っていたものだ。
バイクのおかげで毎日いろんなところに行った。バイトへ出かけるにも、ちょっと渋谷に新しいバッシュを探しに行くにも、池袋にCDを探しに行く時も、15~20分程度の都内での移動を何度繰り返したか分からない。
そして何よりも、バイクに乗っていろいろな体育館へバスケをしに行った。トランクの中には常にボールとバッシュが入っていて、いつでもバスケできる状態だった。これこそが、10代のボクの象徴だったとも言える。
ボクは1日の中に、いくつものタスクを自分に課して、一気にそれをこなしたい性分で、その性質にビッグスクーターはバッチリハマっていた。

トランクに入っていたもの
この投稿を書いている今はなんと2024年7月10日(実際の投稿まで1年以上が経ってしまった)。東京はものすごい暑さだけど、夏らしい晴天。久しぶりにバイクで旅をしたい気分になって、数週間後ビッグスクーターをレンタルして友人とツーリングに出かけてみた。
ボクはマジェスティの後に、ホンダのフォルツァ、PCXとビッグスクーターばかりを乗り継いできていたのだけど、最後にバイクに乗ってから10年近くが経過していた。
横須賀方面へ走りに行ったボクらは、気持ちの良い夏の風と様々な景色を一日中満喫することができた。
そして風を切って走るその時間、ボクの中では、ボールとバッシュをトランクに入れた少年が、今も変わらず体育館へ向かっていた。


