高校2年のとある夕食時、我が家に一本の電話が鳴った。
「なんか集英社とかいうところから電話で、何の話をしているかよく分からないんだけど、心当たりある?」
電話に出た母親は僕に言った。
この電話から遡ることおよそ数ヶ月前、僕はいつものように高校で授業を受けていた。僕が通っていた学校は、良い意味でも悪い意味でも自由。授業中であれ、休み時間であれ、人に迷惑をかけさえしなければある程度の自由が(自己責任ではあるけど)認められていた。他の教科の内職をする人、ひたすらマンガを読む人、発売したばかりのドラクエに夢中な人、様々な人間模様。その頃の僕はといえば、深夜までNBAの放送を見て寝不足なことが多く、授業中は睡眠に充てることが多かった。
ふと目が覚めた時、目に止まったのは床に落ちていたヤングジャンプ。それを拾い上げて読み始めたのだった。目に飛び込んで来たのは、マイケル・ジョーダンの写真。そのシーズンは後にジョーダン率いるシカゴブルズの“ラストダンス”と呼ばれる97-98シーズンだった。

「マイケル・ジョーダン バスケットボールキャンプ!体験記者募集!」
一気に目が覚めた。
細かく読んで見ると、体験記者としてアメリカへ行けるのは10名。どうも作文を書いて応募して選考される必要があるとのことだった。
求められている作文のタイトルは、「マイケル・ジョーダンの魅力」
そして、作文を選考するのはあのスラムダンクの井上雄彦先生と書いてある。

「よし、行こう」
とりあえず、記事を見て興奮していた僕は、授業中にも関わらず周囲の仲間に声をかけ、小声で「ヤバいこれ見て。なんか作文書いて応募すると、ジョーダンのキャンプに行けるらしい、、!オレ、今から作文書いてこれ行ってくるわ!」
躊躇なくその場で作文を書き始めたのだった。作文に何を書いたかは正直覚えてすらいない。しかし、それから数日間で何度も修正を繰り返し、わずか400字に想いの全てをぶつけ、ポストに投函したのだった。
冒頭の集英社からの電話は、まさかの内定通知。その日、僕は人生初めてのアメリカへ行くことが決まったのだった。
母親は電話を切ったあと、「塾の勧誘かと思ったから切ろうと思ったけど、切らなくて良かったわ」と言った。
キャンプでの出来事は、いつかどこかで書く機会があるとして、あのジョーダンキャンプに参加してからおよそ25年が経っている。今の自分があるのも、高校2年生であのマイケル・ジョーダンにアメリカで会ったという体験と自信のおかげだ。
日本中が大熱狂した今年のワールドカップの最後の試合の後、つまりパリ五輪を決めた直後の打ち上げに井上先生もいらっしゃっていて、ご挨拶する機会をいただいた。
「あの時作文を選んでいただきありがとうございました」
ようやく伝えることができて本当に嬉しかった。

僕のジョーダンキャンプはようやく幕を閉じた。



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